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山下紀明(やました のりあき)
京都大学大学院経済学研究科非常勤講師・認定NPO法人環境エネルギー政策研究所主任研究員(理事)

1980年大阪府生まれ。

2005年京都大学大学院地球環境学舎環境マネジメント専攻修士課程卒業。

大学院在籍時にインターンとして認定NPO法人環境エネルギー政策研究所に参加し、2005年からスタッフ。主に地方自治体の環境エネルギー戦略づくりに携わる。

2010年からベルリン自由大学環境政策研究センター博士課程在籍。

2013年から立教大学経済学部非常勤講師 2015年まで「環境政策論」を担当。

2015年から京都大学大学院経済学研究科非常勤講師 「地域主導型再生可能エネルギー事業とキャリア」を担当。

 

主な業績:

論文・研究報告

山下紀明(2016)「メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」環境エネルギー政策研究所 研究報告.

山下紀明(2017)「ハンブルクにおける発電・小売事業と配電事業の再公有化の推進要因」『経済論叢』, 第190巻4号, 53-68頁.

山下紀明(2018予定)「ドイツのシュタットヴェルケと再公有化,日本の自治体新電力の黎明」『ドイツ研究』, 第52号.

 

書籍

山下紀明・大野智彦(2014)「エピローグ ー地球環境学のすすめ」京都大学地球環境学堂編『地球環境学 複眼的な見方と対応力を学ぶ』丸善出版.

山下紀明(2015)「政策と現場のつなぎ手 政策提言・事業化支援」諸富徹監修・若手再エネ実践者研究会編著『エネルギーの世界を変える。22人の仕事 事業・政策・研究の先駆者たち』学芸出版社.

山下紀明(2016)「第6章 政策を活用する、行政と協働する」飯田哲也+環境エネルギー政策研究所(ISEP)編『コミュニティパワー エネルギーで地域を豊かにする』学芸出版社.

 

本講義を始めた経緯

発端は2014年3月に遡ります。上記の『エネルギーの世界を変える。22人の仕事 事業・政策・研究の先駆者たち』の編著者でもある若手再エネ実践者研究会の会合が京都で開かれました。縁あって私も研究会にお声がけいただき、研究会メンバーと一般参加者との意見交換会の中で、大学で「再エネの実務とキャリアを結びつける講義」を作れないかと提案しました。

まずは、2014年9月に自主的なセミナーを開催しました。その際の様子はこちら(環境エネルギー政策研究所のウェブサイトへ)。ゲスト講師もみなさん自費でお越しいただき、参加者も遠くは東京から来ていたため、熱気にあふれる場となりました。

そして2015年から共同担当の諸富先生にご尽力をいただき、京都大学経済学部および京都大学大学院経済学研究科の講義として開講されることになりました。

 

講義を設計するにあたって

具体的に講義を設計する際に念頭に置いていたのは、次の3点です。

1. 多様な若手のゲスト講師がお金も含めて再エネのリアルな実務の話を提供し、対話すること

これは、自分自身が学生だった頃に受けたゲスト講義について感じたことが元になっています。年配のいわゆるお偉いさんが来て、「環境についての当社の取り組み」と言った講義をしていくのですが、当然そこでは成功した取り組みを中心に話します。実際のお金の苦労や困難は触れづらいですし、(少なくとも私は)年代や時代の差を感じることもありました。端的には、「遠い話」で身近なロールモデルと考えられなかったのです。そこで、今回の講義では今まさに苦労や困難に直面しつつも前向きに進んでいる若手の実務者に率直に対話していただき、学生が親近感を持ちつつ目標にしたくなるような方をお呼びしました。

また、大学院時代に私がインターンを経験し、就職後はインターンを受け入れる側として経験してきたことは、「知識や理論ばかりあっても、実体験にはかなわない。」「だけど、知識や理論は、実体験を噛み砕いて吸収して、応用することにとても役立つ」ということです。自らが得た体験・経験は貴重なものですが、それを発展させるために、知識や理論を蓄えておくことはとても有益です。私自身、大学や大学院で学んだことと実体験がうまく結びつけられるようになったのは、就職して3、4年めでした。「あのとき先生が言っていたことは、こういうことか!」と感じることが何度もありました。

この講義では、ゲスト講師のリアルな話と、普段の授業で受講生が得ている知識、理論を対話を通じて結びつけていくことを意識しています。

 

2. ゲスト講師の話とグループワークを通じて、全ての受講者が主体的に参加すること

2つめは、ドイツに留学して感じた対話の重要性を元にしています。学生と教授であっても学生同士であっても、つねに質問・発言と対話が期待され、発言しないということは「場に貢献しないこと」と痛感しました。翻って日本の大学では、講義の中で「質問する=先生の話がわかっていないからする」と理解されているように感じます。だから、みんなが質問を躊躇します。しかし、話す方は「質問がない=自分の話に興味がない、学ぶことがない」というメッセージとして受け取っています。

こうしたすれ違いを埋め、お互いをより理解して学びを発展させていくための質問と対話の訓練の場にしたいと思っています。

 

3. キャリアの話を通じて、受講生自身が今後どの進路を選ぶとしても、再エネや環境問題、ひいては社会的課題の解決に貢献することはできると感じられること。

3つめについては、環境系の大学院を卒業して環境NGOに就職して数年経った頃からの違和感が元になっています。大学院の同級生と会う、同窓会に出るという場面では必ずといっていいほど、「最近は環境のことが全然できてないんだよ」「自分は生活用品メーカーで環境の会社じゃないから」といった会話が出ていました。(実は、環境系の大学院を出たから環境の仕事を選ぶという方はそれほど多くないのです。もちろん、中には「環境と関係ない会社に入ったと思ったけど、会社が新しく再エネ事業を始めることになって、結局環境に戻って来ちゃった。」という友人もいます。)社会人になってすぐの頃、現実は圧倒的です。「環境?それが何の役に立つの?」「環境は大事だけど、コストがかかるから無理」と言われてショックを受けることもあります。そのまま「環境を昔勉強したけど、今に活かせていない」と感じることもあります。

しかし、私から見ると、彼らの仕事は大きく環境に関わっていました。例えば生活用品の生産、消費は大きな環境負荷につながり、その原材料の調達を変えることは大きな環境負荷低減となります。IT系の仕事に進んだ友人もいますが、彼らがどのようなシステムを組むかで産業や社会のエネルギー消費量が大きく変わったりもするのです。もちろんコストとの兼ね合いはありますが、うまく折り合いをつけて新たなビジネスチャンスとする会社もあります。環境分野は複雑かつ幅広い分、様々な関わり方ができると大学院で学びました。しかし、目の前の友人たちはそのことを忘れているかのようでした。

こうした経験から私の心に浮かんだのは、「(環境に限らず)大学・大学院での学びをその後のキャリアにどう活かすのか?」という問題意識です。実は 『地球環境学 複眼的な見方と対応力を学ぶ』のエピローグを書かせていただくことになったのも、この問題意識に対して、環境を仕事にしている同級生、環境以外に進んだ(と一般には思われている)同級生にインタビューを行ったことがきっかけです。環境を学んだ人が、環境を仕事にしないとしても、その後のキャリアに活かせることは何か?または環境を仕事にしていないとしても環境に対してできることは何なのか?

前者の問いへの答えは、前述の本の中で「環境という複雑で多様な側面をもつ問題に向き合ったことから得られる問題発見、問題解決の視点」と書きました。そして後者の問いへの私なりの答えは、「深いところまで考えれば、どのような仕事も環境や社会的課題に結びつけることができる」です。それは、私自身が日々の仕事で感じていることでもありました。

私は行政と仕事をすることが多く、その中には新しく再生可能エネルギーの部署に来た方も当然いらっしゃいます。そして多くの方は「昨年度まで環境や再生可能エネルギーとは関係ない部署だったので右も左もわからなくて」という方が多くいます。しかし、そのあとしばらくすると、例えば「環境や再エネの知識はまだまだ少ないですが、法制担当だったので、再エネ推進条例が作れそうです」という方や、「建築部署にいたので、太陽光発電が公共施設の屋根に載せられるかどうか調べてみます」というように、自分のそれまでのキャリアを異なる分野で有効に発揮する方が多くいました。

環境や再エネを学んでいない方も、自分の得意分野を生かして活躍している。ならば、環境を学んだ人は、(本人が環境とは遠いと感じているとしても)より本業を通じて環境や社会的課題の解決に貢献できるはず。そして長期的には大きな力になっていく。それが実現できれば、社会の広い分野に環境を学んだ人が散らばっていくことに大きな意味がある。ただそれがまだまだ一般的でないから、そのイメージがわかないのだと思っています。

そこで、学生のうちから、自分の学んだことをどう活かすのか、考えておくことができる、そしてそれがワクワクできるような、そんな講義を作れないかと考えました。